古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

出来上がってきたメニューはどちらもものすごく、綺麗で美味しそうだった。

間違っても落としたりしないように、一つずつ順番にテーブルに持っていく。

二つのトレーが並ぶと、二人の女性が同時に「わあ~」と嬉しそうな声を上げた。

「すごい、綺麗。可愛い」
「写真よりずっと美味しそう」

言いながらスマホを取り出して、パシャパシャと写真を撮り始める。

カメラの高さや角度を変えながら熱心に撮影しているところを見るとSNSにでもアップするつもりなのかもしれない。

あの子たちが撮ってくれた写真をメニューに使った方がよっぽど見映えがいいんじゃないかしら。

カウンターに戻り、小声で

「こんな感じで大丈夫ですか?」

と自分の接客について尋ねると、「バッチリ!」の一言と一緒に全開の笑顔がかえってきた。
やっぱり、かなりのイケメンなような気がする。

「やっぱり亀の甲より年の功だな!」

……ただし、口を開かなければだけど。

その後も次々とお客さんが入って来た。

観光客らしい女性グループの姿が目立つけれど、地元の女子大生や高校生らしいグループも結構やってくる。

常連客らしい母くらいの年代の女性二人組には、
「あらあ、また新しいバイトの子?」
と声をかけられた。

いえ、臨時の手伝いで……などとここで私から説明する必要はないだろう。

「はい。よろしくお願いします」

とにっこり微笑み返して、オーダーの抹茶プリンのセットを三つ、厨房に通す。

「はいよ」
休みなく手を動かしながら、奏輔さんは毎回元気に返事を返してくれる。

百貨店に勤務しているとき、繁忙期になると目に見えてピリピリして、声をかけるのをためらってしまうような上司や同僚を何人も見てきた。

ううん。私自身もそういうところがあったと思う。

何度も同じことを訊いてくる後輩にイライラして、それを態度に出してしまったり。

奏輔さんはどんなにお店が混雑してきても、そんなに広くない厨房のなかをくるくると動きながら、少しも苛立ったそぶりを見せなかった。

一度、私がオーダーを間違えて……というかお客さまに「これ、違うんですけど!」と言い張られてしまった時に、

「ご、ごめんなさい。抹茶あんみつじゃなくって、抹茶ぜんざいだったそうです……!」

と慌てて謝ると、

「了解。すぐに出すから待っていただいて」
という返事が返ってきた。

その後、合間を見て
「オーダー、自分が言い間違えたの気づかないでクレーム言ってくるお客たまにいるけど、ハイハイって聞いておけばいいから」
と小声でフォローをしてくれた。

「いきなり忙しくてごめんやけど、頑張ろな」

頑張れ、じゃなくって頑張ろうなというその言い方は、私たちは店長と臨時雇いのバイトだけれど、今は一緒にお客様対応にあたるチームなんだと思えた。

奏輔さんは私の仕事ぶりを監視して叱責する人じゃなくって、一緒にお客様のために頑張る人なんだ。

おかげで初めてのお店でのはじめての仕事にも関わらず、私はとても安心して、仕事に集中することが出来た。