古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

着物は結局、アルバイトの子用のポリエステルの簡易着物とエプロンがあるということでそれをお借りすることにした。

藍色に紫陽花の模様のプリントされたそれは軽くて、肌触りも良くて、母が着付けてくれた絽の着物よりも格段に動きやすかった。

これなら安心して働けそうだ。

祖母は話がまとまったと見るや、

「じゃあうちは昼からお客さんがあるよって」

と言い置いてさっさと帰ってしまった。
まったくマイペースなんだから……。

「えーっと、じゃあ悠花さんにはフロアの方をお願いしようと思うんだけどいいかな?」

「はい。お客様を席にご案内して、オーダーをとって料理を運んだり下げたりすればいいんですよね」

「うん、そう。厨房の方はこれまでも基本的に俺が一人で回してたから」

「分かりました。手が空いている時は出来ることならお手伝いするので指示して下さい」

「了解。お客さんに何か聞かれたりとか分からないことがあったら言って」

「分かりました。あ、メニュー見せて貰って良いですか。今のうちに一応確認しておきますね」

焦げ茶色の表紙のメニューを手にとってパラパラとめくっていると、奏輔さんがほうっとため息をついた。

「何です?」

「いやあ、昨日の感じからもっとぼうっとしとるかと思ったら意外とテキパキしとるんやなと思って」

「そ、そうですか?」

「うん。今まで来たバイトの子らはまず着替えるとこからモタモタしとるっていうか、何したらそんなに時間かけられるんやって思うくらい更衣室から出て来ん子が多くて」

私はちらっと奏輔さんを見た。

「バイトの子って学生さんですか?」

「うん。この辺の大学生の子がほとんど。求人かけたら最初はびっくりするくらい応募があったんやけど、長く続けてくれる子はなかなかおらんくてなー」

成程ね。分かる気がするわ。

昨日は、あのズケズケした話し方に気をとられて気づかなかったけど、この人って意外と綺麗な顔してる。

キリッとした眉に黒目がちの、切れ長の目。
通った鼻筋と引き締まった口元。

短めの黒髪も爽やかでよく似合っている。