古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

「なんや、あんたら知り合いなん?」

「知り合いっていうほどじゃ……」
「昨日、そこの五十二段階段のとこで会うたんや。な?」

彼の簡潔な説明を聞いた祖母は、

「なーんや。昨日は悠花が奏ちゃんに助けてもろたんか。そやったらますますちょうどええわ。今日はお返しに悠花が奏ちゃんを助けたったらええやん」

とぽんぽんと私の背中を叩いた。

「お、お返しってそんないきなり……」

「ええやん。鶴かてお地蔵さんかて助けてもろたらちゃんと恩返しするんやで。人間さまが助けてもらうだけもろうて知らんふりちゅうわけにはいかんやろ」

「何の話なん?」

やばい。

祖母がこんな風にことを運び出したら、たいていの人がそれには逆らえずに言われるがままに流されてしまうのだ。

子どもの頃からそんな場面を何度も見てきたからよく分かる。

「そんでも私、こんな格好で……」
「そんなん上から割烹着きたらどうちゅうことない。今、ちゃっといって家からうちの持ってきたるわ」

「でも袖とか汚したら大変だし」

「襷かけたらええやん。昔の人はみんなそうやって家のことしとったんやで」
「わ、私、昔のひととちゃうし!」

狼狽えるあまり、またこっちの言葉にかえりながら私は懸命に反論した。

「そもそも、よく知らない人間にいきなり手伝うとか言われたって、こちらの、えっと……」

「石和奏輔」

男性が名乗った。

成程。奏輔さんだから「奏ちゃん」ね。
いや、そんなことは今はいいんだ。

「その、石和さんだってご迷惑だよ。私そんな、カフェのお仕事とかまったく未経験だし……」

さあ、今こそさっきからのズケズケ言いを発揮して「うん。こんな鈍くさそうな女迷惑や」とか言って断って!!

という私の願いも空しく、石和さんは

「迷惑なんかやないで。大助かりや」

とあっさり言ってくれた。