古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

促されるままに私は仏間に通されて、慣れない着物姿でなんとか正座をしてお焼香をあげ、それから慌てて母から持たされた菓子折りの包みを差し出した。

あれ、これって風呂敷っていつ取ればいいんだっけ?

家に入る前だっけ?
それとも渡す直前?

内心うろたえている私に構わず祖母はさっさと受け取って自分で風呂敷をほどくと嬉しそうに顔を綻ばせた。

「いやあ。若雀さんのわらび餅とくず饅頭。お祖父ちゃんとうちの好物やわ。由香里さんはいつもよう覚えとってくれること」

由香里というのは母の名前だ。

持ってきたのは私でも買ってきて持たせたのは母だということを、祖母にはすっかり見抜かれていた。

「ひとつはお祖父ちゃんにあげて。あとはお稽古のあとで皆でいただこか」

お稽古の場所には、奥の庭に面した和室があてられていた。

来ていたのは私と沙代里ちゃんの他に三人。

二人はご近所の奥さんで、もうひとりは祖母とカルチャースクールで知り合ったという母くらいの年代の女性だった。

お茶席に出るのなんて中学校の時以来なので緊張したが、祖母が亭主をつとめるその場はとても和やかで、おおらかな雰囲気で、私もうろ覚えの知識ながら大きな恥をかくこともなく無事に手順をこなすことが出来た。

お点前が終わって皆で私が持参した和菓子を頂いているときに、ピロン、とメッセージアプリの着信を知らせる電子音が響いた。

「あら、いややわ。音切っといたつもりだったんやけど」
白の椿柄の着物を着た五十代くらいの女性が慌てたように巾着を取り上げた。


「いいんよ。気にせんでも」
「うちもようやるわ」

そんな声のなかで恐縮したようにスマートフォンを取り出して画面を操作した女性は、

「あらっ、いややわ」

と頓狂な声をあげた。