まわりの街並みは、古い町家風の風情を残しながらお洒落なカフェやレストランが出来たりして、昔の記憶にあるものからだいぶ変わっていた。
父の実家──笹山茶舗は町家風の建物の一階の通りに面した部分を店舗、細長い敷地の奥と二階を住居にしているこのあたりに多いつくりの家だった。
濃緑に白で「お茶のささやま」と染め抜いた暖簾のかかったお店の入り口を通り過ぎ、その横の細い路地を入っていくと白木の玄関がある。
沙代里ちゃんが慣れた風にインターフォンを押すと内から応対する声がして戸がからりと開いた。
藍色の露芝模様の着物をすっきりと着こなした祖母は、私の記憶のなかの姿とあまり変わっていなかった。
白髪まじりのグレーの髪をフェミニンな感じのショートヘアにしているのも若々しく見える。
「沙代ちゃん、いらっしゃい。暑いなかご苦労さんやな」
「ほんとう。毎日暑いですね」
沙代里ちゃんはにこにこ笑って日傘をたたんだ。
その時になって祖母がはじめて私に目を向けた。
「悠花か?」
私は思わずこくんと頷いて、それから急に恥ずかしくなった。
「は、はい。ご無沙汰してます。今日は急に一緒にお邪魔してしまって……」
私のぎこちない挨拶は祖母の朗らかな笑い声に遮られた。
「なにをかしこまっとるの。この子は。長いこと東京におったからって何もお祖母ちゃんにまでそんな気取らんかってええやろ」
ころころと笑いながら祖母はそっと私の着物の帯に触れた。
「まあ、しばらく見んうちにすっかり娘さんらしゅうなって。お祖父ちゃんもびっくりするわ。はよう見せたって」
父の実家──笹山茶舗は町家風の建物の一階の通りに面した部分を店舗、細長い敷地の奥と二階を住居にしているこのあたりに多いつくりの家だった。
濃緑に白で「お茶のささやま」と染め抜いた暖簾のかかったお店の入り口を通り過ぎ、その横の細い路地を入っていくと白木の玄関がある。
沙代里ちゃんが慣れた風にインターフォンを押すと内から応対する声がして戸がからりと開いた。
藍色の露芝模様の着物をすっきりと着こなした祖母は、私の記憶のなかの姿とあまり変わっていなかった。
白髪まじりのグレーの髪をフェミニンな感じのショートヘアにしているのも若々しく見える。
「沙代ちゃん、いらっしゃい。暑いなかご苦労さんやな」
「ほんとう。毎日暑いですね」
沙代里ちゃんはにこにこ笑って日傘をたたんだ。
その時になって祖母がはじめて私に目を向けた。
「悠花か?」
私は思わずこくんと頷いて、それから急に恥ずかしくなった。
「は、はい。ご無沙汰してます。今日は急に一緒にお邪魔してしまって……」
私のぎこちない挨拶は祖母の朗らかな笑い声に遮られた。
「なにをかしこまっとるの。この子は。長いこと東京におったからって何もお祖母ちゃんにまでそんな気取らんかってええやろ」
ころころと笑いながら祖母はそっと私の着物の帯に触れた。
「まあ、しばらく見んうちにすっかり娘さんらしゅうなって。お祖父ちゃんもびっくりするわ。はよう見せたって」
