「それでは、これでパート練習を終わります。あとは各自で練習して。」

「「「はい!!」」」


わたしは中学の時も入っていた吹奏楽部に入部した。

夏のコンクールが終わり、三年生の先輩方が引退。少し寂しくはなったが、新チームで次の目標に向かって練習を重ねていた。



「美月、あっちで一緒に練習しよ」

そう言ってきたのは同じ楽器の先輩であり、この部活の部長、陽菜先輩。

演奏も上手くて優しくて憧れの存在だ。


はい!そう返事をするとわたし達は渡り廊下に椅子を並べ、練習を始めた。



暑い夏が終わり、季節は秋。

つい最近誕生日を迎え、16歳になったのはわたし、柳瀬美月。

高校生になったからといって飛び切りの恋が始まることもなく、オシャレに目覚めるでもなく、ただただ部活に没頭するだけの日々。

先月行われたコンクールでは地区大会で金賞という素晴らしい評価を受けたにも関わらず、全国大会には届かなかった。

あの時悔し涙を流していた三年生たちはもういない。



「美月ー、取ってあげなよ」

先輩の声ではっと我に返る。


「あっ、はい、」

ふと見ると渡り廊下の先に野球ボールが見えた。

そしてこの位置からよく見えるグランドからガタイのいい野球部の生徒が走ってきた。

必死に汗を拭きながらボールを探しているようだった。

9月とはいえまだまだ残暑が厳しい。影に入れば涼しいのだけれど、外の部活の人たちは炎天下の中汗を流して練習しているのだ。

わたしにはできない・・・


とか色々考えていると、さっきの生徒が近付いてきた。


「あ、それ、ありがとう。」

「い・・・いえ」


私が少し緊張してボールを渡すと、彼は綺麗な白い歯を見せて笑った。

こんがり焼けた肌と汗だくのその見た目からは想像できないくらいの、爽やかな笑顔。


「じゃ、ラッパがんばれよ!」


そう言うと彼はまた走ってグランドに戻った。

あったぞーと大きな声を出しボールを仲間に投げる。

その姿をじっと見ていた。



・・・ラッパじゃねーし!クラリネットだし!


言い返すには遅すぎた。