直ぐに距離を縮められてしまう。


「私はもっと傷つきました。これ以上付きまとわないで下さい。」


周りの買い物客の注目を集めないよう、隣に並んだ木下さんに小声で抗議するが…


「貴女が私を愛してくれさえすれば、その傷は傷とは思わなくなりますよ。」


そう言ってニコリと笑う。




この人は…




「僕から逃げられると思っているんですか?」


「!?」


「僕にもっと貴女の事を教えて下さい。さあ、貴女の家に行きましょう。」


手を捕まれ、無理矢理歩かされる。


「もうすぐ主人が帰ってきます!」


「そんなはずはないですよ。原因不明のパソコントラブルで夜まで帰って来ませんから。」


「原因不明って…」



彼の言い方に嫌な予感がした。



「ええ、勿論原因は僕が作りました。」



夕日に照らされてにこにこ笑う顔が、血に染まっているようで恐ろしかった。



このままじゃ、あの時より酷いことをされてしまう…

どうすれば…




「あれ?実里さん?と…木下君じゃなーい。
こんな所で会うなんて偶然ね。」


私達の進路を塞ぐように背の高い女性が立っていた。

握られていた手はいつの間にか離されている。



「西部さんこそ。ここら辺に住んでるんですか?」


木下君はあの変わらない笑顔で西部さんに笑いかける。