お店の人が、


   「あと10分で閉店です。」


        と、一つ一つのテーブルをまわりながら言っていた。



 気にもとめなかったが、もう店に入って二時間半もたっていたのだ。



 いつの間にか、客も数えるほどしか残っていなかった。
 


 彼を見ていたらあっという間に時間が過ぎていたのだ。



 私は、楽しかった時間をくれた彼に、心の中で感謝して、今日の記念に最後に彼の座っているテーブルの横を通ってお店に出ようと決めた。
 


 何もないとわかっていてもドキドキしながら、彼のテーブルの横を通り過ぎようとしたときだった。



 突然彼に腕を捉まれた。



 私は予想していなかった出来事に、声にならない声を漏らし、その場に固まってしまった。



 固まっている私をよそに彼は、
 

   「ねぇ、お茶しよう。」


        と、一言だけ言うと、私の返事を聞かずに、捉まえた腕を引っ張って歩き出した。



 ドキドキと早まる鼓動を感じながら私は、彼の行く砲へ抵抗することなくついていった。
 


 午前十二時を過ぎた時間に、やっているお店は居酒屋か、ファミリーレストランくらいしか近所になかったので、私達はファミリーレストランに入った。



 私達ではなく、彼が勝手に入ったと言った方が正しいのかもしれない。



 お酒を飲む気分でもなかったので私にとってはありがたかった。