彼との出会いは春だった。
 


 私は新入社員の歓迎会の後、二次会に行く気になれず、かといって真っ直ぐに誰も待っていない家に帰るのも嫌で、コーヒーショップで少し時間を潰して帰ろうと立ち寄った。


 それが彼との出会いだった。
 


 コーヒーショップは満席ではなかったが、そこそこ人が入っていた。



 私は、比較的人の目に触れることのない端っこに座って、コーヒーを何も考えずに飲みながら、店内の時計を探していたとき、ふと私の目線に飛び込んできたのが彼だった。
 


 会話を楽しむ人、読書をする人、勉強をする人。



 さまざまな人がいたが、その中で彼だけは、違うオーラをかもしだしていたのだ。



 彼は、Tシャツにジーパン、髪の毛はぼさぼさで人の目なんか気にせず、パソコンにひたすら没頭していた。


 
 たまにパソコンから目をはずしたと思えば、ボーっと上の空の顔をして、またパソコンと向き合うこととの繰り返しだった。



 私にはそんな繰り返しの行動を見ているだけで暖かい気持ちになり、時間がたつのを忘れた。
 


 たまにパソコンから顔を上げた彼と目が合った。



 その時、私はすぐに目線をはずし素知らぬ顔をしていた。



 だから、彼は自分が見られていることなんか、気付いていないと思っていた。



 しかし、違ったのだ。