坂巻さんは二時ごろ出社してきた。

「お疲れ」と言いながら部署内の男性や女子と会話して、私の方へと視線を向けるでもなく席に着いて仕事を始める。


カタカタ…とキーボードを叩きながら商談結果をまとめてるみたい。
凄く早く動く指先を見つめ、こっちは思わず吐息が漏れてしまう。


(大変そうだな。でも、いつもながら見事な仕事ぶり)


昨夜の残業なんて響いてもないみたいにテキパキと働く彼を見てると羨ましくなる。
誰とでも嫌な顔一つせず会話して、それでもって、そつなく仕事もこなせるから素晴らしい。


(私とは雲泥の差があるって言うか。これだから少し手伝ってもらっただけでも皆に変な目で見られるのかな)


息を吐いて席を立った。
データ室へ行こうと部署を出たところへ課長が歩いてくるのが見え、徐ろにドアを避けて頭を下げた。


「ああ、お疲れ」


営業二課の課長を務める小山さんが声をかける。
私は小声で「お疲れ様です」と返し、データ室へ向かおうと踵を返した。


「…ああ、そうだ。諸住さん」