あの一件以来、私は男子と話すのが怖くなってしまい、高校でも大学でも、異性とはほぼ喋らずに過ごしてきた。

入社してからも男性社員とはあまり話さないでいて、必要以上には声もかけないし掛けられもしない日々を送ってる。

だから、これまでは平穏無事にやってこれたんだ。
そう、この間の呟きを聞かれるまでは__。


「諸住さん?」


いきなり視界にイケメンな彼が現れた。

ビクッとなりながらも息を吸う。
目を見ると彼がふわっと微笑み、私はその綺麗なスマイルに釘付けになった。


「何でもいいならこの近くにある店に行こう。オムライス屋だけどいいよね」


ビルから歩いて五分程度の店だと言われ、其処なら自分も知ってます…と言いたかったけど。


(駄目だ、やっぱり声にならない…)


どこまでも臆病者な自分に呆れる。
本当はこの誘いも断って、ダッシュでオフィスを後にしてしまいたいけど……。


(でも、私が安易に仕事を引き受けた所為で遅くなったんだし)


そう思うと逃げ出すのも失礼な気がして応じた。