憧れの彼と、イイ仲になりたいんです!

彼はさっきとは違って少しゆっくりめに歩き出す。

私はその歩調に自分の足を合わせながら覚悟を決め、ゴクンと唾を飲み込んだ。


ホテルの玄関を出た私達は、駅に向いて歩いた。

坂巻さんはホテルを出たところから腕を離して、私の左側を同じ速さで歩いている。

特別これといって話す内容も思い浮かばない私は若干の居心地の悪さを感じたまま、胸の音がドキドキと鳴り響くのを聞いていた。



「楽しめた?諸住さん」


右上から声がして、ドキーン!と大きく心臓が震え上がる。
振り仰ぐと彼がこっちを見つめていて、「え、あの…」と声にもならずに戸惑った。


「俺は残念ながら楽しめなかった。女子の相手をさせられ続けて少しウンザリ」


もっと気軽に飲みたかった…と話す彼の言葉を本気と捉えてもいいんだろうか。
いつも嫌な顔一つしない彼の、これが本音なんだろうか。


「諸住さんもつまんなそうだったね。周りの連中もなんだか無視してたっぽいし、俺そういうの見るとムカついてきてさ」


正義感丸出しのように話し、私は驚きで息を飲む。