「確保!」
息を弾ませた人の声がして、私はまた固まってしまう。
腕をぎゅっと握ってる人は私の前に回り込んできて、少しムッとした表情で、驚く私の顔を見下ろしていた。
「駄目だよ。一人で帰るなんて危ない」
そう言うと、目の前にいる人は大きく深呼吸をして、「えらぁ」と一言漏らした。
どうして彼が此処にいるのかが直ぐには分からなかった私は、目をパチパチと瞬きさせた。
「エレベーターを待ってたら間に合わないと思ったから、階段ダッシュで駆け下りてきたんだ」
見つけられて良かった…と囁き、呼吸を整えてから「行こう」と腕を引っ張る。
「さ、坂巻さん…」
こっちは彼がそこまでする理由が分からず、とにかく腕を離して貰いたい一心で名前を呼んだ。
振り返る彼の額に汗が滲んでる。
それを見つけると何も言えなくなって、悄気ながら目線を下げて謝った。
「すみません…」
私が怖気付いて逃げなければ良かったんだ。
そしたら、彼を走らせなくても済んだ。
「別に。何を謝ってるのかは知らないけどいいよ」

