「あら、違うわよ。諸住さん」


そう言い返してきたのは先輩だ。
彼女は自分のデスクに戻ると書類の束を上に置き、椅子に座って続けた。


「こういう場合は、お互いに『ありがとう』でしょ。
これからもこういう感じで助け合おうよ。その方が効率いいし、残業もしなくて助かるから。
…とは言っても、これまでは私が一方的に助けて貰ってたんだけどね」


ごめんね、ありがとう…と言われて鳥肌が立った。
嬉しくて鳥肌が立つなんて初めてで、ゾクゾクしながらも「はい!」と声を上げた。


「ありがとうございます!」


部署内に響く声に皆が振り返る。

私はハッとして肩を竦め、慌てて座ると先輩に頼まれた資料を作り出した。



(今のこと、早速今夜教えないと…)


この部屋に今居ない人と、親友達に。


そう思うと、私はようやく暗かったトンネルを抜け出した気分になり、鼻歌でも混じりそうなくらいの勢いでサクサクと仕事を捗らせた。


その後、部署に戻ってきた坂巻さんは、予想に反して楽しそうに仕事をしている私を見つけ、不思議そうに首を捻りながら上座へと向かった……。