困ったように視線を走らせ、狼狽えたまま黙り込む。

その様子を見てると俺は無性に彼女が可愛く思えてしまい、クスッと小さな笑いを含んだ。


近付こうとして一二歩前に足を伸ばすと、ビクッと背中が伸びて怯える。

まるで追い詰められた小動物か何かのような感じで、虐めてしまいたいような、護ってやりたいような気持ちに襲われた。



「諸住さん」


名前を呼ぶと恐る恐る目線が上がり、窺うように俺を見る。

課長にいいとこ取りされて、俺は悔しいやら情けないやらの不格好さで階段を下りてきたのも忘れ、彼女を見返して訊ねた。


「今の言葉、信じてもいいんだよね。俺の聞き間違いとか、その場凌ぎだけの冗談とかじゃないんだろ?」


そう訊くと、更に顔が真っ赤になっていく。

その様子が如何にも真実を物語っているように思え、益々嬉しくなって頬の肉が緩んだ。



「…ま、間違いじゃ…ない……です」


区切るように声を発すると、きゅっと唇を結ぶ。
それから、自分を落ち着かせるように深呼吸を何度か繰り返し、最後の息を吸って吐くと……。