「何だよ。何かあったのか?」


恋愛は専門外だが相談に乗ってやろうと言う相手に、遠慮しますよ…と笑い返した時だ。

キィ…と階下のドアが開く音が聞こえ、数人分の足音もした。

俺達は顔を見合わせて「入ろうか」と囁き合い、小山課長がドアノブに手を伸ばして捻りかけようとしたんだ。



「……ねぇ、昨日のことなんだけど」


発せられた声を聞き、課長と顔を見合わせる。
どうも同じ課の人間らしいと気づいた俺達は、下の様子を窺うように動きを止めた。


「諸住さんは、坂巻君と付き合ってるの?……」


問い質すように訊ねる声を耳にして、彼女も一緒なのか…と驚いた。
課長も同じく思ったらしく、ノブを捻らずに俺を振り返る。


彼女の声はしない。
だが、「何か言えば?」と言う者の声を聞き、もしかして、複数人で一人を取り囲んでるのか?と殺気立った。



「待て」


駆け降りようとした俺の肩を掴み、小山課長はぐっと力を込めて座らせる。



「慌てるな」


そう言うと、シーッと言いながら人差し指を立て、コソッと窺うように階段の下を覗き込んだ。