「ちょっといい?話があるんだけど」


坂巻さんと同期の先輩がそう言い、焦って上座を見遣ってみたが、不幸にも坂巻さんはおらず、さっき課長に呼び出されて席を離れたままだ。

だから、彼には頼れない状況下でこれ……。



「…あ、あの」


私は仕事が残ってて…とは、とてもじゃないが言える雰囲気ではない。

ジロッと睨まれると、芽を出しかけた勇気でさえも萎んでしまう。


「悪いけど一緒に来てくれる?」


先輩が先頭に立ち、他の女子から押し出されるようにして外へ出た。

そのまま集団で歩いてても、部署が同じだからか不思議に思う人は誰もいなくて……。


(何の話があるって言うの?第一、何処へ連れて行くつもり?)


中学時代のように無視されるよりも、今の方が遥かに何かされそうな感じがして怖い。
子供の頃よりも絶対に大人の方が悪質そうだ。


ゾォ…としながらも付いて行くしかなかった。
勇気も出ない私には、逃げたすことも助けを求めることも出来なかった。


彼女達は廊下を突っ切ると非常階段へ続くドアを開け、私にも出て…と促した。