それをデスクに置くと、真剣な表情でファイルを捲りながら黙々とパソコンに向かい始める。


後から聞けば、それは営業戦略会議用の資料を作成していたらしい。

入社して三年にも満たない彼女が作るには難しい作業だったみたいで、眉間に皺を寄せながら、古い資料を片手に考え込んで作業を進めていた。



(もう少し周りに頼ればいいのに)


離れたデスクからそんな風に彼女を見遣った。

迷いながら手強い作業に追われる彼女を不憫に思いながらも見守り、いつしかそれが習慣づいてしまった。

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「俺は諸住さんを見ると、武者修行中の侍みたいだな、といつも思ってたんだ」

「サムライ!?」


彼女は呆然から唖然とした表情に変わり、俺は苦笑しながら「そう」と言った。


「一人でやらなくてもいい作業を一人でこなして、同じグループの男子も当てにしてません的な雰囲気で働いてさ」

「あの…」

「いいよ、分かってる。頼み難いのもあったろうし、頼んだ後を考えると、手伝って下さいとは言えなかったんだろう?」