書類を頼まれた彼女はその日も遅くまで残っていて、時々ふぅ…と疲れたような息を吐いても投げ出さずに、最後までちゃんと仕上げて帰っていく。


(自分が上司に頼まれた仕事でもないのに)


そう思うと気の毒で、それでも頑張り屋さんだなと感心させられた。


その後も、彼女は毎度のように先輩の女子から残業を頼まれていた。
最初は困惑気味に戸惑っていても、理由を聞くと断れないらしくて了解をして。


そんな彼女を見て、俺はえらく信頼されてるんだな…と勘違いしていたんだ。
事実を知ったのは、喫煙ルームに足を運んだ時のことだ。



壁に背中を凭れて煙を吐き出していると、ピロンとラインのメッセージが入る音が聞こえ、中にいる男の一人がスマホを開いた。

画面を見てニヤつき、隣にいる野郎が「何だよ」と肘で突いている。


「いや、彼女からメッセージが入って、今夜は残業を別の人に頼んだから会えるよ、って連絡がきただけ」

「ああ、あの二課の彼女か」

「そう。なんでも同じグループに頼みごとを絶対に断らない後輩がいるみたいでさ」