同じ部署内で働く諸住 杏を見るようになったのは、彼女の些細な癖を発見したからだった。



(…あ、またやってる)


同じ営業グループのメンバーと会話していると、デスクに着いている彼女が、指先で髪の毛を弄っているのが見えた。


その手はきゅっと握られるとデスクの下へ滑り込み、次はお決まりのように深い溜息を吐き出して肩を竦める。


それから、徐ろに顔を上げてパソコンに向かいだす姿を、俺は何となく可愛いらしいな…と思って見つめていた。



「ねーねー、諸住さーん」


甘ったれた声で彼女の名前を呼ぶのは同じ営業グループの女子だ。
彼女は書類を見せると手を合わせ、仕事を頼んでもいいかと訊いている。


(あの場面、この間も確か見たような…)


断ってやれよと頭の中で訴えても、人の良さそうな彼女は和かな笑みで「いいですよ」と請け負っている。


「本当!?恩にきる!」


嬉しそうに声を上げる女子は振り返るとほくそ笑み、手のひらをぎゅっと握ってガッツポーズを作った。



(なんだ、あれ。嘘なのか?)


一見してそう思え、サイテーだな、と反吐が出そうになった。