幻惑な夜

笑っている。
女がだ。

向かいの部屋から出て来た女は声を出して笑っていた。

俺は再びレンズから外をうかがう。

女の後に、長髪で金髪の男が部屋から出て来た。

二人の笑い声が、ドアを通して聞こえて来る。

女と一緒に部屋から出て来た金髪の男には見覚えがある。

環七沿いのガソリンスタンドで働いている男だ。

今テレビや雑誌で話題のラーメン屋が環七にあって、そこへ行く途中に何度か見掛けた事がある。

レンズの向こうでは男と女が笑うのを止めた。

何やらコソコソと話しをしている。
と、いきなり二人してこっちを向いた。

俺は瞬間に首を引っ込め、レンズから目を離す。

バレた?

何で? 何でここから二人を覗いてるって分かった?

…いや、まさかな。

俺はもう一度レンズを覗く。

…あれ?

外は真っ暗で何も見えなくなっていた。

それはほんの数秒で、すぐにパッと視界が開けた。

部屋のドアが再び目に入って来る。