幻惑な夜

浴槽の隅、その縁の上に何か白い細長い物がのっかっている。

俺は屈み込んだままの状態で、目を凝らしてその白い細長い物を見つめた。

…体温計?

何でこんなとこに体温計?
こんな物、昨日シャワーを浴びた時にはなかったよな。

俺は浴槽の中のパチンコ玉を掴んでから体を起こし、その白い細長い物を手に取ってみる。

よく見ると、それは体温計とは違うみたいだ。

長さは体温計と変わらない。

しかし体温計は脇に挟む方が細くなっているが、これは均一の太さだ。

それに体温を表示するディスプレイがない。

その代わり、真ん中に小さい丸い穴があって縦に一本赤い線が入ってる。

…あれ?
疑問と不安が、俺の頭の中でうごめく。

…これってやっぱあれだよな。

「…嘘だよ」

俺は小さく、思わずそんな言葉を口にしてしまう。