幻惑な夜

「何やってんだよ、頼むよほんとに。早く帰って寝たいんだからさあ。明日も早いんだよこっちは」

キンッ、キンッと、ジッポーの蓋を再び苛立ちそうに開けたり閉めたりしながらNBAがぼやく。

「いいよ、じゃ、ちょっと先で中仙道にぶつかるから、そこでUターンしてよ」

「すいません、うっかりして…。あ、あのスタンドの横入れば、さっきの道まですぐ戻れますから」

オレンジ色に光るガソリンスタンドの看板を右手に見ただけで、自然と口から出て来たその言葉に自分でも驚いた。

「だから、一通なんだよそこは」

「いや、大丈夫です。この道入れますから」

「…あんた知ってんのここら辺の道?」

…知ってる。
あのスタンドは昔もそこにあった。
あの脇道はこっちの環七に向かって進入禁止のはずだ。
こっちからは入れる。