私は慌てて、相楽から原稿をひったくる。そうこうしているうちに、エレベーターのドアが開いた。急いで乗り込むと、相楽も乗ってくる。私は閉ボタンを押しまくった。閉まりかけたドアに足を挟んだ相楽が、ぎゃあ、と叫ぶ。

 しゃがみこんだ相楽を残し、エレベーターは下へと向かう。ドクドクと心臓が鳴っているのがわかる。相楽、大丈夫かな……いや、あんなやつどうでもいい。

 私は心を落ち着け、深呼吸した。──大丈夫。相楽が言いふらしたところで、しらばっくれればいいのだ。
エレベーターがエントランスに着くと、ポーン、と音が響いた。私はヒールを鳴らし、エレベーターから降りた。


 ★

 相楽義明は、5歳年下の後輩だ。年齢は23歳。彼は一年前、私のいる部署に配属された。

「嬉しいなー。こんな美人が指導係で」

 初顔合わせの時、相楽はニコニコ笑いながら言った。私は相楽を見て、冷たく告げた。

「辞める時は辞表を出してね。電話やメールじゃなくて」

 新入社員の面倒を見るのは三人目だったが、前の二人を思うと、こいつにも期待できそうにない。私はそう考えていた。相楽はけらけら笑った。

「辞めませんよー。せっかく大手に就職したのに」

 調子のいいことを言う。笑い事ではない。私が世話した新人二人は、両方三カ月以内でやめていったのだ。しかし言葉通り、相楽は一年持った。あのお調子者は、意外にも要領がいい。そして何より、取引先にウケがいいのだ。

だが私は、相楽義明が気に入らない。いかにもなチャラ男だからだ。いつも女子社員にきゃあきゃあ言われてるし、きっと二股とかしているに違いないのだ……。

 翌日、私は晴れない気持ちで部署に向かった。相楽とどんな顔で会えばいいのだ。重い足取りでフロアに入ると、同僚が声をかけてきた。