うん? 坂口さん、いないよ?

社長がなぜ、今いない秘書の坂口さんの名前を出したのか不思議に思い首をひねっていると、いきなり左側から目の前に書類が出てきた。
ビックリして隣を見ると、そこには秘書の坂口さん。

この人も社長のお気に入りで、涼しげな奥二重の目元が印象的な顔立ちの30代の男性。
すごく頭のきれる人で、社長ですら「あの子は敵に回したくないわ・・・」と呟いているのを聞いた事がある。

「この先3ヶ月の、社長のスケジュールです」

そして、必要な事以外は話さない人。
何を考えているのかが読めなくて、実は、私は坂口さんが少し苦手だったりする。

「あ、ありがとうございます・・・」

坂口さんから社長のスケジュールのコピーを受け取る。
それにしても、いつから隣にいたんだろう・・・。

「決まりましたら、ご報告を」

それだけ言って、自分のデスクがある社長室へと入っていく。
その背中を見送り、言ってしまった。

「こわいよ、坂口さん・・・」