私は、その人から目が離せないままだった。

もう少し近くで見てみたい。

その人のところまで行くには、この道を渡らなければ。
渡れそうな場所は、向かいの美容院の位置とは逆方向の、ここから少し先にある横断歩道。
横断歩道に向かって歩き出したとき、もう一度美容院の扉が開いた。

そこには、顔だけ出したもうひとりの男性。
嬉しそうに笑って、何かを話して王子さまの肩を叩いた。
王子さまは困った顔をして、首を傾けている。
そんな顔を見て更に嬉しそうな笑顔になり、また何かを話して、片手をあげて美容院に戻ろうとしている。
王子さまも片手をあげ、横断歩道とは逆方向へ歩き出そうと一歩踏み出した。

あ、行っちゃう・・・!

せっかく見つけたのに!
そう思った瞬間、無意識にガードレールから身を乗り出して、思いっきり叫んでいた。

「あの! 美容院の前にいる方、動かないでください!!」