強く塞がれていたため、視界がぼやけてよく見えない。
ただ、真っ暗で、隣に誰かがいるということだけはわかった。

「もう。来てくれるなら来てくれると、そう言ってからにしてくださいね。危うく失明するところでしたよ」

その声は間違いなくさっきの男のものだった。

あの光は失明レベルなのか、と思うと少し怖くなる。
そして冷静になったところで、男が話した言葉を脳内で再生した。

来てくれるなら来てくれると…?

「は!?ちょ、これ、未来に行ってるってこと!?」

「え?はい。そうですよ?」

右手を握ったまま、とぼけたように言う彼。

「そうですよ?じゃないわよ!私、行くなんて一言も言ってないじゃない!それに…あんた誰!この変人!!!離して!!」

だんだんと視界がハッキリとしてきた、にも関わらず、この世界は真っ暗で、進んでいるのか進んでいないのかもわからない。

「あれ?言いませんでしたっけ。僕はマオと申します」

行くなんて一言も言ってない、というのも、離して、というのもスルーされた。
でも、もはや反論しようと意味が無い。
既に謎の空間に迷い込んでしまったのだから。

「マオ…?名字は?」

スルーされたことをスルーして聞いた。

「名字?あぁ、そういえば、そんなものが昔あったと習いました」

ということは〝未来〟にはないのか。
本当に〝未来〟ってものがあるんだ。

「あーもう、聞きたいこと盛りだくさんなんだけど!?とりあえずここどこ?」

「あ、梨衣子さん。すみません。もうすぐ着くので着いてから質問に答えさせていただきます!」

「え?うわぁっ!」

マオは私の腰に手を回し、青いレンズのメガネをかけてきた。
よく見るとマオもつけている。
失明防止グッズなのだろうか。

すると、また強い風が吹いた。
今度は吹き付けるのではなく、ぐいぐいと押し出される。

ドライヤーの中にいるような気分と言うのが正しいのかな?
いやいや、そんなことよりも、私がこれからどうなってしまうのか…。

眩しい光が明けたその先には、宙から見下ろす、草原の景色が広がっていた。