晴れて大学生になり、夢のキャンパスライフが始まる。







____はずだった。










すぐに見つかると思っていた彼女は3ヶ月経っても出会うことが出来ていない。

学科が違うのか。
それとも、もう卒業してしまったのか。



いや、あの時。確か、1年と言っていたはず。
ならば、今は2年じゃないか。










「あのー。吉田くん、だよね?」






ショートカットで茶髪の女子。the 女子大生と言う服装。ふわふわという擬音語が似合いそうだ。







少しずつ慣れてきた大学内。まだ緊張はするも、憧れとしていたこの大学。
しかし一向に慣れない大きすぎるこのKUIS8、いい意味で。

英語オンリーの2階にいることが多いが、大学の友人と一緒の時は1階にいることが多い。







ただ、この日は友人を待つ理由でひとりでいた。









「はい。吉田ですけど」


「わぁー!よかった。私、大宮 紗代(おおみや さよ)。覚えてる?」


「え。あー、いや。」


「だよね。入学式の時も声掛けたんだけどさ。あ!入学説明会の時も話したんだよ?」


「へー。」


「あれ?迷惑って感じ?」








一般的に可愛らしい子だが、話が入ってこなかった。
理由は僕にとって、優先順位がハッキリしていたからだ。






薄れていた期待が大きく叶った。









「ごめん、俺。行かないと」


「あ、待って。連絡先、」


「じゃあっ」










外との壁がガラスなのに感謝。

見間違えることの無い彼女の姿を見つけることが出来た。


今逃したら次はないと、見えない手に押され、見えない糸に引っ張られるように走った。









「あのっ」





大きく出た声に目的以外の人も振り返る。
僕の視線がひとつしか指していないのは確実で、彼女だけが残った。





「俺、吉田 翔平って言います。」





目を開き、戸惑っている彼女に少しずつ近づく。

警戒されないように。ゆっくりと。







「今年、入学してきた1年で。国際学科です。コミュニケーション専攻です。その、、俺っ」


「あの。」






録音されていた声と全く同じの美しい声。

か細く、聞こえた。







「私。インドネシア語専攻です。」


「い、、インド、ネシア」


「人間違いだと。」


「え、いや。人間違いじゃ、」


「国際学科の先輩なら、向こうにたくさんいます。」




僕が出てきた建物を指さす。
これは、彼女なりの断り方なのだろうか。





「小谷、さん。ですよね」


「っ。なんで、知って」


「俺、小谷 佳奈さんに用があるんです」





僕のことを1ミリも記憶に残ってないのがわかった。
なのに、名前を出すのは警戒心を強めただけだ。

焦ってるわけではないが、出会えたという興奮とまだこの大学にいたという安心で気が抜けてしまった。





「率直に言います。」





今から。初めて本気の”気持ち”をぶつけます。






「高3の夏、小谷 佳奈さんをみてからずっと、」


「佳奈ー、早く!」







少しだけ気弱になった僕の声は、遠くから彼女を呼ぶ大きな声に負けた。







「あ、私。行かないと」


「あ、どうぞ。」


「でも、」





言いかけになった僕の言葉を聞こうとしてくれてるのか、友人であろう女の人達の所へ行くのを少し躊躇っていた。
これは、小さな希望にかけるしか。





「また、声。掛けてもいいですか」


「へ」


「あ、ぃゃ。ちゃんと時間ある時に、話したい、、って思って」





迷惑か。
彼女の困ったように気を使った笑顔は答えを示していた。

そりゃそうだ。見知らぬ男から大声で呼び止められ、何故か自分の名前を知っていて変なことを言い出すんだから。






「やっぱ、迷わ、」


「いい、、ですよ」


「え。」


「私なんかで良ければ。お話合うかわかりませんが、大きく含めてこの大学の先輩として話せることはあると思いますし」






自分でも感じた。

今、アホみたいににやけてんだろうなって。




小さく笑って愛らしく会釈をすると、早く早くと急かす女の人達の所へ小走りに向かっていった。
そんな彼女の後ろ姿に余韻をひたらした。







「やっべぇ。マジで可愛い」






知らず知らず漏れていた声に気づくことなく

彼女が見えなくなるまで突っ立っていた。