そのまま彼は顔だけを上げて固まっていた。

紗代ちゃんは気に食わないようだ。




「なに。その上から目線」

「え」

「いえ、何も。」





可愛らしくニッコリとする紗代ちゃんは、本当はこういう子なんだと心底ガッカリさせた。

それと同時に、捨てられた子犬かのように瞳を潤ませ私を見つめる彼に驚かされる。





「え、あの子泣いてない?」




横にいた小林 陽(こばやし はる)が私にこっそり言う。
彼女は、唯一相談に乗ってくれる信頼できる人だ。





「翔平くん、あの」




声をかけてみれば、更に不安そうに今にも泣きだしそうになる。




「お、俺。そんなに迷惑っすか」

「迷惑というか」

「すんげぇ心臓痛いんすけど」



自分の胸元の服を握りしめて私を力の強い視線で見つめてくる。




「そりゃ、ほぼ初対面かもっすけど。俺はずっと佳奈さんが好きなんすよ」





どうすれば。





「1回、デートすれば。紗代ちゃんへのちょっとした仕返しにさ」





こっそりと楽しそうに耳元で話す陽。

つい誘いに乗ってしまった。







「じゃあ。1回、お出かけしませんか」





みるみると笑顔になる彼につられて笑う。





「よっしゃー」




無邪気に喜ぶ彼に私も嬉しくなった。
本気っての、信じていいかな。