電車を降りたら熱風が全身にぶつかってきた。
「暑い。」
ただでさえ暑いのに、俺はパンパンに膨らんだリュックにショルダーバックをかけ両手には紙袋を持っていた。
駅、といっても誰もいない無人駅を出て、一応あたりを見回す。
「タクシーなんているわけないか。」
紙袋を置いて、スマホで目的地を検索し、ナビ機能を開始させた。

「直進、一キロ先、左方向です。」
ポケットからは暑さをもろともしない機械音が聞こえてくる。
「一キロかよ」
すでにtシャツの首元は汗でびっしょり、拭くこともできず、汗となって出た分の水分も補給できず、ただひたすら歩いた。

左に曲がっても、また一キロ。
「死にそう、」
歩くペースも落ちて、休憩しようとしていたところに一台のkトラックが俺の横に停まった。
そして、運転席の窓から一人のじいさんが顔を出した。
「兄ちゃん、駅から歩いてきたんかい。」
「はい、ほんと死にそうです。」
「そりゃそうやわ。乗りんさい。同じ道までのせってたるわ。」
「ありがとうございます。」
断るという選択肢はなかった。おじいさんに言われたとおり、荷物を荷台に載せて助手席に座った。
昨日買っておいたお茶をまるまる一本飲み干した。
「生き返ったぁ」
トラックの中は決して涼しいわけではないが、天国に思えた。それくらい外は暑かったのである。
「兄ちゃん、どっからきたん?」
「埼玉です。」
「へぇ~。都会や、この辺の景色なかなかないやろ。」
「そうですね」
「山に川、田んぼに畑。自然だらけの町。都会に比べりゃ、比べもんになんねぇほどなんもない町やが、都会にないものもたくさんある。楽しんでいってな。」
「はい」
「誰ん家むかっとるん」
「小林っていう友達のおばあさん家です。」
「あー、小林さんか。そうか、お孫さん遊びにきとってるもんな。あ、こっち左やな。」

約十分程度、乗せてもらって、おじいさんと別れた。
「ありがとうございました。ほんとうに助かりました。」
「いや、人助けやから、人助け。じゃ、ここからまたがんばりなさい、な」
「あ、これ」
紙袋から箱を一つ取り出した。
「埼玉名物、草加煎餅です。お礼に受け取ってください。」
「お、いいんか。ありがとうな」
おじいさんは、軽く手を上げるとさっきと同じ速度で走っていった。
さてと。ここからあと、五分のところか。
地面に置いていた紙袋をもって、俺はまた歩きだした。

「ここか。」
もともとこのあたりの大地主とは聞いていたが、結構でかいなぁ
家は横に長く、玄関も俺の家の二倍くらいの広さある。
インターホンを押すとすぐに、俺をここに呼びつけた一つ上の先輩、小林 安澄が出迎えた。
「よくぞ、ここまでたどり着いた。」
「干からびて、死ぬとこだったぞ」
「まあ、向かいに行かなかったのは悪いと思ってるよ。ごめんって」
俺は、あずを完全無視して家に上がった。
「部屋は二階ね」
あずは俺を部屋に案内した。部屋は綺麗だった。シングルベットに、本がぎっしり詰まった本棚、机が設置されていた。
「今日から四週間。ここは君の部屋だ。好きに使ってください。」
「はいはい。」
俺は、ショルダーバックとリュックを下ろし、紙袋だけもって下に降りた。

「やっぱ、でけー家だな。」
「うん、まあね。あ、家におばあちゃんのほかにいとこの家族とお手伝いさん、おばあちゃんの知人の先生がいるから。」
俺はあずに連れられ家にいる全員に挨拶をし、お土産を「みんなで食べてください」とお手伝いさんにわたした。
まだ、半分しか終わってない一日だがもう終わった気分になった。


「ただいま~」
「おかえり、あれ?その箱どうしたの?」
「今日、駅から歩いて小林さん家まで行こうとしていた埼玉から来たって兄ちゃんを途中まで送ってったの。そのお礼やって」
「へぇ~。真面目な人なんだね。」
「そーちゃん、これから小林さん家行くんか?」
「うん、今日は数学の日だから」
都会の人かぁ、どんな人だろう。かっこいいかな。
楽しみになってきた。
教科書や教材をいれたバックを肩にかけ、最近買ってもらったミラーレス一眼カメラを首にかけて家を出た。