ヒロインの条件


とぼとぼと一人、品川のマンションへ帰ってきた。千葉と過ごしてきた日々を思い出したが、どこに「好き」なんて要素があったのか皆目検討がつかない。

漫画を読んでいるとき、「いーなー二人から告られて。どっちもイケメン」って思ってたけれど、実際にその状況になってみると、意外と気が重いということがわかった。

だってどちらかには「ごめんなさい」って言わなきゃいけないでしょ? あ、どっちもっていう可能性もあるか……、とにかく気が重い。

ぼんやりとエレベーターに乗って、ぼんやりと部屋に入った。リビングのソファにどしんと腰を下ろして初めて、そこに佐伯さんが横になっているのに気がついた。私の腿のすぐ横に、佐伯さんの頭がある。

仰向けで腕を目の上に置いている。髪がしっとり濡れているので、シャワーから上がったばかりかもしれない。白いTシャツにスウェットといういでたちで、伸ばした足がソファの端から飛び出ていた。

久しぶりに見たかも……。

佐伯さんも千葉も、なんで私が好きなんだろう。可愛くないし、料理もできないし、腕っ節が強くて、誇れるのは柔道を満足したというところまで続けられたっていうことだけ。

「おかえり」
眠っていると思っていた佐伯さんが口を開いた。

ちょっとびっくりしたけれど「ただいま戻りました」と返事をする。佐伯さんはムクッと起き上がって、汗でよれよれの私を振り返った。沈む夕日がビルの間をすり抜けて、リビングへと差し込んでいる。佐伯さんの髪はオレンジ色に光って、顔の半分は影に隠れている。

なぜか突然、部屋が静かなことに、落ちつかなくなった。