なぜか気まずい雰囲気が二人に漂って、二人は黙って道を歩く。

千葉、どうしたんだろう? 好きだとか嫌いだとか、千葉との間でこんな話題は出たことがなかったから、どう言ったらいいかわかんないとか?

もうすぐ駅というところで、ぴたっと千葉が立ち止まった。振り返ると片手にペットボトルの首をプラプラと持って、こちらをじっと見ている。

「どしたの?」
私も立ち止まった。

千葉は少し迷って、それから意を決したように口を開いた。

「ずっと野中が好きだったんだ」
「……え?」

私の聞き間違い? 「好き」って言った?、まさか。
めまいに似た高揚感に襲われる。

「野中は、戦っているときが誰よりも綺麗だ。ずっと一緒にいたくて柔道を続けたけど、いつの間にか道が分かれて気づいたら見失ってた。だから昨日会えたときは、運命だと思ったんだよ。でもそう考える奴は、俺の他にもいたってことなんだな」

私の周りだけ、突然空気がなくなってしまったみたいに、口をパクパクした。信じられない告白を今聞いている。

ずっと友達で仲間だと思ってきた千葉が、私を女性として見ていたって……嘘でしょ?

胸がドキドキしてくる。

「俺の方が一歩リードしてる。その佐伯って人は、野中の人生のいつ交わったかもわからない奴だ。でも俺はずっと野中の側を走ってきた」
千葉の顔がかあーっと真っ赤になるのを、私は驚きのまま見つめた。

「また、連絡する」
千葉はそう言うと、私の横を足早に歩きさった。前のめりで少し肩をいからせて歩く背中は、試合会場でよく見た姿だ。

追いかけようかと一歩踏み出したが、結局そのまま立ち尽くした。なんと言っていいかわからない。

「信じられない」
私は強い日差しのなかつぶやいた。

「一度に二人からだなんて、やっぱりヒロイン設定すぎるよね?」