「二人、紹介するから」
先生の声がして気づくと、稽古が終了した小学生たちがずらっと正座をしている。もっと佐伯さんのことを聞きたい気持ちを抑えて、私は立ち上がった。
「こいつらは、ここ出身で全国まで行ったツワモノだよ」
先生が誇らしげに私たちを紹介してくれた。
私と千葉は子供達の好奇心にさらされながらも、照れて自然と笑みがこぼれる。
「ちょっと全国レベルを見せてやってくれるか?」
白髪が増えた先生が、私たちに聞いてきた。
「俺、もう四年間やってないっすよ」
千葉が気後れしたように言う。
「えー、やろうよ千葉! 久しぶりでたのしそう」
私は先生の提案が嬉しくてたまらない。しばらく誰かと組むなんてことしてなかったし、千葉とも本当に長くやってない。
先生は満足したような顔をして、私たちに柔道着をかしてくれた。洗って少し硬い感触の布を羽織ると、すごく気持ちが落ち着く。会社の制服に着替えるのとは訳が違った。
小学生が周りを取り囲む中、千葉と対峙し、一礼する。この瞬間が一番神聖で、一番躍動するのだ。
「はじめっ」
先生の掛け声で、久しぶりに戦いの場に躍り出た。

