「そっかあ」
どっと力が抜けるような声を出して、西島さんは肩を落とした。なんだかかわいそうになってしまったけれど、わざわざ偽名を使ってるんだから、正直に言っちゃいけないよね、きっと。
「帰るところ、ごめんね。ありがとう」
西島さんはそう言うと、手を振る。「おつかれ、また明日ね」
「うん、明日」
西島さんがシステム管理部に入っていく背中をちらっと確認すると、私はエレベーターの方へ行こうとしてふともう一度、システム管理部の方へ目を向けた。
佐伯さんが椅子の背もたれに肘をついて、こちらを見ていた。西島さんはすでに椅子に座って、佐伯さんには背中を向けている。
ニッと笑うと口が喋るように動いた。
『俺ももうすぐ帰る』
かな……?
ドキーンと胸に痛みが走って、見られてないかと周りを慌てて見回した。
私が胸に手を当てこくんと頷くと、佐伯さんは肘をついていた方の手のひらを軽く上げて、椅子を引き再びパソコンに向かい、パーティションの後ろから少し背中が見えるだけになった。
ドキドキドキドキ。
なんか悪いことをしてるみたいな気分だけど、秘密っぽいのがヒロインみたいでイイ。
私はエレベーターに乗り込むと、一人ニソニソ笑ってしまった。

