「それでピンときたの。塩見さんって名前が『日向』。これって社長の名前と一緒でしょ? テレビでよくあるじゃない? 社長が偵察のために身分を隠して部を偵察するってやつ。社長が初めて論文を発表したのって、まだ大学時代だったから、年齢的にも合うんだよねっ」

私は笑い出しそうになった。だって、もうばれてるんだもん。

いたずらっ子みたいな顔をして「しーっ」と指を口に当ててた佐伯さんを思い出して、さらに笑いがこみあげある。あの人、ほんとカワイイ人だ。

「笑ってるけど、こっちは真剣なんだよ。で、どうなの? 塩見さんって社長?」

そう気かれて、私は言葉につまった。正直に話しちゃいけないような気もするし、でも嘘をつくのもとっても苦手なので、表情が変になっちゃう気がする。

「さ、さあ? ちょっとしか見なかったから」
声が裏返って、変な感じになってしまったが、興奮している西島さんはそれどころじゃないらしい。

「じゃあ、もう一度見て! まだいるからさ、私の席に来て確認してよ」
「えー、だって行く理由がないし」
「理由なんて、いくらでもつけられるじゃんっ。お願い、私、社長に憧れてこの会社に入ったの。入社すればもしかしたら顔が見られるかもって期待してたのに、ぜんぜん顔を見せないし、がっかりしてたんだよ。もし塩見さんが社長なら、夢がかなったってことなの」

こんなに熱く話す西島さんは初めてだ。私はその迫力に気圧されて、思わず「社長だよ」なんて言いそうになってしまったが、こればっかりは佐伯さんに言ってもいいか確認を取ってからじゃないとダメだよね。

「お願い!」
袖をぎゅうーっと引っ張られて、私は思わず「わかった」と頷いた。