陽が沈みかける中、私は実家の近所にある土手の柔らかい草の上に腰を下ろしていた。両手の中に缶コーヒーを持ちながら、ゆったりと流れる川に暁色が波打つのを眺める。
ふと顔を上げると土手の先に、メガネをかけた佐伯さんが見えた。私は立ち上がり、手で洋服についた草を払った。
「こんにちわ」
私が言うと「こんにちわ」と佐伯さんが言う。久しぶりに見る顔は、少し緊張しているように見えた。
「思い出しました」
私が缶コーヒーを差し出すと、佐伯さんはそれを受け取った。
「それから手紙も読みました」
私が言うと「えっ」と佐伯さんはひるむ。「本当に?」
「はい、お兄ちゃんが隠し持ってたんです」
それを聞くと、佐伯さんは両手で顔を覆った。
「ああ恥ずかしい……。読んでないんだろうなと思って、それはそれでホッとしてたのに。あれは一時の気の迷いで、いや書いてあることは本当のことなんだけど、ああ、恥ずかしいな……」
「俺、子供っぽい」
「そうですね」
私がそう答えると佐伯さんが「だよな」と恥ずかしそうにする。
「でも嬉しかったです。だって私も佐伯さんのこと、とても好きだから」
佐伯さんは少し驚いて私を見つめ、それから私の手を取った。
そのとき茜色の風が私たちの間を通り過ぎた。
佐伯さんの前髪がふわっと持ち上がって、私を愛しそうに見つめる瞳が見えた。
そして、幸せそうに私に笑いかけた。
私も微笑む。
この瞬間、私はあなただけのヒロインになった。
《完》

