ヒロインの条件


私は手紙を手に、窓の外を眺めた。
おぼろげに浮かぶ場面がある。夕方、私が土手の上の遊歩道をランニングしていたら、突然「俺」という声が聞こえた。振り返ると土手の上に一人の男の人がいたのだ。

若くて、メガネをかけている。黒い髪が夕日のオレンジに染められ、その下から耳が見えた。その人は耳たぶをキュッと引っ張って、少し間が空く。

それから「塩見っていいます。塩見日向」と言った。

心の奥底が暖かさで満ちていく。私はちゃんと佐伯さんと出会っていた。覚えてる。

よかった……嬉しい、私は忘れてなんかいなかった。