俺は悪意を持って「いや、ヒロインになれるよ」と言った。明らかな悪意があったのは自覚がある。誰も彼もを傷つけたいと思っていたし、ヒロインなんていう特別な存在には、誰もなれないのだと思っていたのだから。
その時、妹の芯の強そうな表情のその奥に、かすかにちらっと何かが見えた。はにかんだ表情というのかな。俺は文才がなくて、うまく説明できないのがもどかしいけれど。
「かわいいと思う」
気づいたらそう言ってた。その言葉には、今度はまったく悪意のかけらもなかった。
妹は頑なに唇を閉じて、何も言わずリビングを走り出て行った。
残された俺は、呆然としてた。
その時初めて、妹は、野中花という女性になった。

