背筋が伸びて、視界が広がった。私、まだ全力で何もできてなかった。ヒントはある。佐伯さんはずっと待ってくれていた。

佐伯さんのことを思い出して『好きです』って伝えるんだ。

久しぶりに、頭が回転し始めた。私は、これまで出てきたヒントを頭の中で並べる。

「メガネ・2012年……それから、そうだ、名前! 坂上さんはずっと佐伯さんのことを塩見って呼んでる。ずっと塩見だったって言ってた。どういうこと?」

私はソファの上にあぐらをかいて首をひねる。

「そういえば、佐伯さんが初めてシステム管理部に来たとき、私に社員証を見せた。二度も『塩見です』って言った! 塩見……塩見日向は本名なの?」

そんなことあるだろうか。だって会社の代表のところに『佐伯日向』って名前が載ってるのに。ウィキペディアにも『佐伯』で載ってるし。

私はスマホを取り出して、もう一度『佐伯日向』と検索すると、すぐにウィキペディアが出てきた。今度は名前を確認するだけではなく、ちゃんと最初から最後まで読む。

『2010年 両親の離婚により母方の姓を名乗る。旧姓:塩見』

「これだっ」
私は勢いづいて、大声をあげた。「私が出会ったときには、塩見日向だったんだ!」

そこでピタッと、推理が止まる。えー、待って。それで? 塩見日向って名前も全然記憶にないのに……。