その週は、佐伯さんとまともに顔を合わせることがなかった。

火曜日の夜から佐伯さんは帰ってきていない。一応ラインには『仕事で会社に泊まります』と書いてあったけれど、もしかしたら坂上さんと一緒にいるのかな、などと良からぬことばかりを考えて、辛くてしんどい毎日だった。

ヒロインってどうやったらなれるのだろう。もう佐伯さんは私と一緒に居たくなくなったんだろうか。予想だにしなかったヒロイン設定だったけれど、ホンモノになれるわけがないのだ。

金曜日の夜、一人きりのリビングで、ぼんやりと考える。柔道一筋のときは、ぼんやりしてる暇なんかなかった。毎日忙しくて、毎日楽しかった。

こんな風に何もできずにただ泣くなんてこと、なかったのに。

どうして私、柔道をやめて、普通の会社員になっちゃったんだろう。もしかしたらあのまま、指導者の道とかへ進んだ方が、私らしく毎日楽しかったのかもしれないのに。なんで、佐伯さんの会社になんか……。

そういえば、進路を決めるときに、ヒロインになりたいって、なれるかもしれないって期待して、普通の会社に入ることにしたんだった。

私、入社してから頑張ったかな? もちろん仕事は一生懸命してるけど。

ヒロインになるために、必死になって頑張ったかな?

『でも野中は、違うことも全力でやるんだろー?』
千葉の言葉が蘇る。

私はまだ全力じゃない。