「体の相性は、私たちよかったのよね。ほら、ティーンネージャーって、そればっかりじゃない?」
「はあ」
「暇さえあれば、学校でもよくしてた。塩見はいつもポケットに持ってんの、アレ」
「アレ?」
「そう、アレ。妊娠は責任取れないからでしょ」
ああなんか、ズーンと落ち込んできた。青春持ってこられるとかなわないって、山本さんも言ってたけど……予想以上い生々しくてショックだ。
坂上さんは「ほら、飲んで飲んで」と私にビールを勧める。私は言われるがままに、ジョッキをぐいっと開けてしまった。だって、しんどいよこの話題。涙が出そう。
「このくらいの意地悪は、オッケーよね。あの無関心男をここまで変えちゃうんだもの。私はできなかったのにさあ」
もうこれ以上はしんどくて……。
「あの、やっぱり教えてはもらえないんでしょうか」
「塩見の恋路を応援するなんて、冗談じゃない」
「はあ」
私は「お時間ありがとうございました」と頭を下げる。頭に血が瞬間的に下がって、アルコールのせいでフラフラした。
「もう、帰んなよ。塩見待ってんでしょ」
「はあ」
それからふと疑問に思う。
「坂上さんって、会社の外でも佐伯さんのことを塩見って呼ぶんですね」
坂上さんは「だって、私はずっと塩見って呼んでるもの」と微笑む。
……なんで? だって塩見って偽名じゃないの?
視界がくらくらする。さっきの一気飲みが効いてるみたいだ。ちゃんと思考が働かない。ああ、もう、このまま倒れこみそう。
「ありゃ、弱いわねー、この子」
坂上さんの呆れた声が聞こえる。「起きた時覚えてたら、ラッキー。私からもヒントです」
耳元に気配を感じ、香水の甘い香りが鼻をかすめる。
「バカ兄貴に聞いてみなよ」
そう聞こえた。

