『思いついたら、即行動』
私は二人の目の前で、坂上さんへ内線をかけた。
「今日、プライベートなことで少しお時間をいただきたいのですが」
そう言うと「いいよー」とすぐによい返事がもらえた。
「じゃあ、仕事帰りに、一杯いく?」
「はい、ありがとうございます」
内線を切ると、山本さんが「戦いよ」と声を潜めて言ってくる。
「元カノほど、手強い相手はいないの。どんなに塩見さんが野中さんのことを大事に思っていても、変えられない過去を持ち出されるとどうしても気持ちが負けちゃう。特に青春っていう二度と戻ってこない綺麗な時間を持ってこられたら、アウト」
私はごくんと唾を飲む。
「気持ちをしっかり持って、聞かなくちゃいけないことをちゃんと聞いてね。影響されたりしないでね」
「はい!」
確かに、坂上さんのことを考えると、動揺してしまう。制服を着た二人なんかを想像したら……。
ダメ! もう負けてる!
私は空中で帯をしっかり締め直した。

