「私が中学生で、佐伯さんが高校生のときらしいんですけど、そんな昔のこと覚えてないし」
「がんばって思い出してる?」
山本さんは肘をついて、ちょっと疲れ気味に尋ねてきた。
「いろんな人に聞いたりとかしましたけど」
「坂上本部長には聞いた?」
そう言われて「え、どうしてです?」と思わず答える。だって坂上さんと私は何の関係もないし。
「あの人、塩見さんの元カノだよ? 中高一緒だって言ってたじゃない? 出会ったのが塩見さんの高校時代ってことは、そのとき坂上さんと友達だったか、恋人だったかした訳でしょ?」
「あ、そっか……」
私は自分の頭の回らなさに腹が立った。そうだ、坂上さんなら何か知ってるかもしれない。
「思いついたら、即行動」
山本さんが言う。「すぐに坂本本部長にアポとって」
「あの……山本さん、怒ってますよね?」
私は本当に申し訳ない気持ちで、おずおずと尋ねた。
「怒ってるよ、時間を無駄にしたじゃない!」
山本さんが言う。それから「ふふ」と笑って「『好き』に持って行く前でよかった」と付け加えた。
「これが、めまいするほどの狂おしい初恋だったら、野中さんのこと恨んでると思うけど、そういう訳じゃないしね」
山本さんの初恋は、とても辛いものだったのかもしれない。なんとなくそんなことを思った。それにしても、山本さんは顔に似合わず、すごく男前の人だ。
「素敵な初恋でよかった」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。

