ヒロインの条件


山本さんは私たちを見て「まだ二人はもうちょっと時間に余裕があるね」と言う。
「少しぐらい我を失ってもいんじゃない?」

「そうだ!」
山本さんが手をパンと打つ。

「野中さん、柔道仲間どうなった? 今のうちだよ〜こういうのが楽しいのは」

好奇心に満ちた視線を受けて、私はどうしたらいいかわからず軽くパニックになる。待って、ちゃんと言ったほうがいいんじゃない? 逃げないで、窮地に陥ったときほど、真正面から当たるんだ。試合のとき、そういう風に心がけてきたじゃない?

「あのっ」
私は背筋を伸ばした。試合前と同じような緊張感が走る。ん?というように、二人が見てきた。

「私、好きな人ができました」
宣言すると、二人の目がまん丸くなる。

「わお。おめでとう」
山本さんがにっこり笑いかけてくる。なんてキュートな笑顔なんだろう。

「さ、佐伯さんです!」
「……塩見さんってこと?」
西島さんが「えー?」というように、ぱっつんの前髪に眉毛が隠れるほど、眉をあげる。

「私、二人に言ってないことがあります。ごめんなさい、ずっと秘密にしてました」
緊張で吐きそうだ。これでもう絶交されちゃうかもしれない。

「私は全然覚えていないんですけど、佐伯さんは昔私と会ったことがあるっていうんです。それで『ずっと好きでした』って言われて、でも全然覚えてないもんだから、なんて答えていいかわからずにいました」

きょとんとした顔で、二人が私を見てる。