うわーっと罪悪感がこみ上げてくる。私は佐伯さんに告白されたことも、一緒に暮らしていることも全部秘密にして、山本さんの気持ちを何食わぬ顔で聞いている。
なんてひどい。ヒロインというよりも、人の恋路を邪魔するサブキャラだ。
私はごくんと唾を飲み込む。全部正直に話したほうがいい? みんな私のことを嫌いになるかな……。
西島さんが「ちょっと早くないですか?」と尋ねる。
「もうちょっと距離を詰めてからでもいいんじゃないかな、と」
すると山本さんが「でも強敵が現れたんだよ。片思いの相手を忘れさせるのに、元カノなんて最高の駒じゃない? ここは捨て身でいったほうが確率が上がるんじゃないかと思う」と言った。
そして「西島さんは言わないの?」と話を振った。
「私?!」
素っ頓狂な声で西島さんが言う。「私はいいですよ。眺めてる専門で」
「だって、塩見さんのこと好きなんじゃないの?」
「好きっていうか……やっぱり憧れです。私が志す先に塩見さんがいる。じゃあ塩見さんとキスしたり、エッチしたりしたいかって言われたら、微妙だなあって」
「微妙なの?」
山本さんが思わず笑う。「あのランクの男性だったら、全然エッチとかできるけどなあ」
私はその会話にあっけにとられてしまった。山本さんはすっごく可愛い顔をしてるから、肉食っぽいことを言われるとそのギャップに驚いてしまう。
「山本さんは、あの……佐伯さんのことが好きなんですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「うーん」
山本さんは腕を組む。「好きだと思う。そうやって自分を持っていける気がする」
「持っていけるって、面白い言い方ですね」
西島さんが言う。
「もうこのくらいの年齢になると、初恋みたいに頭の中それだけっていうわけにはいかないもの。その先に何があるのか考えるじゃない? それを打算的だと言わればそうなんだけど……もう怖いよ、我を失うような恋は」
なんか、すごく説得力のある言葉だ。

