ヒロインの条件


「……あれ?」
佐伯さんが唐突にそう言った。

腕の中で佐伯さんを見上げる。「どうしたんですか?」

「熱い……野中、熱がある」
「ああ、そうかも……ちょっと風邪ひいてて」
私が言うやいなや、佐伯さんは私をがばっと抱き上げた。

「え? 何!?」
「寝なきゃ」
「……大丈夫ですよ? 元気いっぱいです」
私はそう言ったけれど、佐伯さんはさっさと私の部屋へと入っていく。ベッドに私を下ろすと、薄がけの布団で私をぐるぐるに巻いた。

「水と薬持ってくる。寝て」
「平気ですよ?」
「平気じゃない」

佐伯さんは一大事と言わんばかりに仰々しく言って、私を寝かせる。しばらくするといろいろを持って戻って来た。

「取り合えず薬」
「ありがとうございます」
私はあっという間に病人に仕立て上げられて、ベッドで横になる。確かに風邪をひいていたけれど、別に寝込むほどでもないのに。

額の上に冷えピタを貼って、佐伯さんは「よし」とベッドの端に腰を下ろした。

「気分は?」
「悪くないです」
「よし」

満足げな佐伯さんを見て、私は思わず笑ってしまった。