「あーあ、やっぱ絶対不利だって、俺」
千葉は机に肘をついて、頭をかかえる。「たった一週間で、ここまで差がつくって、ありえない」
「差なんかないでしょ」
そう言いながらも、明らかに佐伯さんへ感じる感情と、千葉への感情は違う。
「野中は俺のこと、好きじゃないよ」
そう言い切られると「好きだよ!」とムキになった。
「一緒にいると楽しいし、気楽だし、居心地いいし。佐伯さんと違って、千葉は誠実だもん」
「そりゃ友達と変わんないよ」
「どう違うの? 教えてよ、だって私、全部が初めてだって言ったじゃない!」
千葉が口を開く。
「心を奪われるんだ。自分が自分じゃなくなるような、怖いような、期待するような、そんな気持ちになるんだ。俺は、野中に心を奪われてる」
そのまっすぐな言葉と眼差しに、胸がとくんと鳴る。私は同じ熱量で、同じ率直さで、この眼差しを返すことができない。
千葉は大事な「友達」。それ以上でもそれ以下でもないのだ、きっと。
「ごめん」
私が言うと、千葉は深いため息をついた。
「いいんだ、あの人と一緒に暮らしてるって聞いた時から、こうなる気はしてた」
「本当に……」
私が言いかけると、千葉は「謝んなよ」と声をかぶせる。
「感情は、どうにもならないだろ?」

