「あの人と出かけたりした?」
パッと佐伯さんの顔が脳裏に浮かんで、思わず眉間を寄せる。すると千葉が「なあ、なんかあった?」と尋ねてきた。
「……別に、なんていうか、イライラするっていうか、腹が立つっていうか、チクチクするっていうか」
私はスプーンでアイスをくるくるかき回しながら話した。
「なんだそりゃ」
千葉はよくわからないらしい。いや、普通わからないと思う。自分でもどうしてこんな風になっているか、わかんないもん。
「佐伯さんは、全部経験してんの」
「経験?」
「そう、昔彼女がいた」
そう言うと、千葉は「だから?」と首をかしげる。「あの年で誰もいなきゃおかしいだろ」
「……かも」
私は不満満載でスプーンを加えた。解ってる、理不尽なことでムカムカしてるってこと。
すると千葉がぽんと背もたれに体を預けて「なあ」と尋ねる。「俺も付き合った子いるって言ったらどう思う?」
「え……」
私はポカンとして千葉の少し真剣な目を見た。
「俺も経験してるよ、いろんなこと。二人いる、元カノ」
「えー、いつのまに……」
私はその事実に衝撃を受けて黙り込む。柔道に全てを捧げていたのは、じゃあ私だけだったってこと?
でも不思議と、佐伯さんに感じたような痛みは感じなかった。すんなりその事実を受け入れてる。

