ヒロインの条件


翌日、すきっ腹に風邪薬を飲んでマンションを出た。佐伯さんは一歩の部屋から出てこなかったので、本当にホッとした。またひどく佐伯さんを責めてしまうのは避けたかった。

千葉とは一週間ぶりぐらい。それまで会わない時間がとても長かったけれど、この一週間の方が長かったような気がする。

晴天の土曜日だ。駅の改札口で立っている千葉を見つけると、懐かしさに似た感情が沸き起こってきて、嬉しくて手を大きく振る。

「待った?」
「待たないよ」
千葉はいつもよりちょっとオシャレに見える。シャツにジャケットなんか羽織って、別人みたいだ。

「どこ行くの?」
私が尋ねると「映画とかどう?」と言う。

だるさが抜けきらないので、座っていられるのはありがたい。私は喜んで同意した。

とても新しくてきれいな日比谷の映画館に入ると「どれ?」と千葉がきいてくる。

映画なら恋愛モノが一番好きだけれど、今日はそんな気になれない。

「コメディとか、笑えるやつ希望」
「オッケー、野中らしいな」
と、千葉が笑っていうので、私はその笑顔に安堵する。千葉と一緒にいると居心地がいい、すごく。

コメディ映画は単純で面白い。何も考えずに笑えて、今日千葉に誘ってもらえてありがたかった。