ヒロインの条件


「あそこって、ただの高級じゃないでしょ? 多分超高級」
鈴坂さんが「ふむ」と探偵のように言う。「平のシス管じゃ、到底住めないよ」

「でしょー?」
山本さんが腕を組む。「コネ入社って言ってたけど、誰のコネなんだろう。すっごい気になる」

「御曹司?」
「えー、漫画じゃないんだから。だいたいいたとしても、大抵の御曹司はイケメンではないよ」
「でも万が一ってことがある」

みんな好き放題に言っているけれど、誰も佐伯さんを「社長」だとは思っていないようだ。私はすっと席を立つと、盛り上がっている経理部から逃げ出した。廊下に出ると、ほっと息をつく。

なんて心臓に悪いシチュエーションなんだろう。もう本当に、佐伯さんがみんなに白状してしまえば、楽なのになあ。

突然、ポンと肩を叩かれて、驚いて振り返る。そこには西島さんが難しそうな顔をして立っていた。
「あ、おはよ」
私が挨拶すると「ねえ」と、私の挨拶をスルーして話しかけてきた。

「ねえ、私一晩考えたんだけど」
「う、うん」
何やら思いつめたような顔で、心配になってくる。

「塩見さんに、あの部屋のことを聞いてみようと思うの」
まるで清水の舞台から飛び降りるみたいな決心をしていて、私まで緊張してくる。

「私が聞く?」
あんまりにも思いつめているので、思わず言ってしまった。

「いいの? 本当、いいの?」
西島さんの目がキラキラと輝いて、私は後戻りができなくなるけれど、きっと、佐伯さんがうまくごまかしてくれるだろう。すると突然「ねえ、なんの話?」後ろから声がして、私も西島さんも驚いて飛び上がった。